ちよこれいと

事務所の応接室に転がる巨大な芋虫のような物体がひとつ。

 

 

 

 

「なに、あれ」

　元は応接室のソファの上にあったのだろうと想像するには容易な位置の床に転がる、毛布にくるまれた物体を指してユエリが首をかしげた。

「なんかね、気に入ったらしいよ。着る毛布。暖かいんだって」

「あぁ、アスカくんなのね？仮眠中？」

「仮眠っつーか…ほら、チョコ」

「馨先輩からの、ね。今年も頑張った結果かしら」

「うん。結局オレにも一口もくれなかった。チョコ苦手なのに無理して食うから気持ち悪くなるんだよ。バーカバーカ。オレにくれてればよかったのにー」

「わかってても食べたいんでしょ。アスカくんも変わればかわるものね。彼だけは死ぬまで飄々と自分勝手に生きて行くんだと思ってたのに」

　クスクスと楽しそうに笑うユエリ。

　ここのところ恒例となった【残念な物体】も、毎度死守してきちんと自分の胃に納めるあたり、恋人への義理はきちんと果たしているようで見ていてなかなか面白い。

「家で食べるとこの姿を見せるハメになるからここで食うんだとさー。もーさー、犬も喰わないどころの話じゃねーんだよなー。あの毛布だってきっと馨サンと一緒に入るんだぜー。持ってくんじゃねーつの！」

「まるで星ちゃんがヤキモチ妬いてるように聞こえるけど？」

「ちげーよ！今年！結局！オレ！！ゆえりんからももらってねーっつの！アスカもなんだかんだで作ってくれなかったしー。オレ人生で初めてだ。チョコの無いバレンタイン」

　力説する星児の声が大きかったのか、もぞもぞと起きだしたアスカ。

「仕方ねぇだろ。俺だって馨に作る予定だったのに忙しくて無理だったんだ…って重いと思ったら」

　特注でっかい着る毛布をめくってみると、そこにはアスカの腹にぺたりと貼りつくようにしてすやすやと寝息を立てる真昼が。どうやら眠っている間に勝手に潜り込んだようだ。

「…チョコのおすそ分けが無かった腹癒せか…シャツにヨダレまで垂らしてるし」

「まーちゃんの独り勝ちね。帰って馨先輩に怒られるといいわ。愛する人以外とも毛布を使いましたってね」

　毛布のキャッチコピーを思い出して楽しそうに言うユエリに溜息で応え、真昼を起こさないようにそっとソファに横たえる。

　脱いだ毛布を丁寧にたたみ、そっと胃のあたりを押さえる。

　味は美味しいのに、なんでこう、胃に重いのか…？

　毎年何かしら残念なところがある物体だが、味だけは美味い。なので感想は素直に美味いと言えるのだが。

　来年はどんな残念ポイントが待っているのか、今から少しだけ楽しみだったりも、するようだ。


今年もプレゼント有難う！
大切に使わせてもらいます。
着る毛布、すごく欲しかったアイテムでした。
背後家に犬が居なかったら絶対入手してたと思われますｗ